「NADiffで学ぶ、現代アート連続講座」第1回レポート
第一弾「キーワードで読み解く現代アート」— コンセプチュアル

開講日: 2018年 7月20日(金)

講 師: 小川希(Art Center Ongoing)

 

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NADiff a/p/a/r/tを教室にして始まった「NADiffで学ぶ、現代アート連続講座」
第一弾「キーワードで読み解く現代アート」の第1回目を7月20日に開催しました。
第一弾は吉祥寺にあるArt Center Ongoingの小川希さんを講師にお迎えし、3回にわたってコンセプチュアル、フォーマリズム、ポリティカルのキーワードを読み解く、現代アートのいろはを学べる入門講座です。

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初回となる今回のキーワードは「コンセプチュアル」。
マルセル・デュシャンから始まったコンセプチュアルアートの100年を、2時間にギュッと詰め込み、分かりやすくお話いただきました!
レポートでは、講座の様子をダイジェストでお伝えします!

マルセル・デュシャン 〈『ART VIVANT 1981年3号』(発行:西武美術館) 表紙より〉
マルセル・デュシャン
〈『ART VIVANT 1981年3号』(発行:西武美術館) 表紙より〉

講義は、コンセプチュアルアートの始まりと言われるマルセル・デュシャンの『泉』から。
デュシャンは、今から101年前の1917年のニューヨークで行われた、6ドル払えば誰でも出展できる、審査も検閲もない展覧会にて、「R. MUTT」の偽名を使って、便器を横に倒した作品を出展しました。
誰でも出展できるはずの展覧会で、「いかなる定義からしても、これは芸術作品ではない」として撤去された『泉』は、記録写真に残るのみ。『泉』に対して生まれる「こんなの芸術じゃない!」という感覚から、デュシャンは「芸術とは何か?」という問いを提示したのです。
1917年というのは、アメリカが“平和と自由と民主主義のため”に第一次世界大戦に参戦した年。戦争による数えきれない死者の上に成り立つ、平和と自由とは何か。平和と自由があってこそ芸術があるのであれば、芸術とは何なのか。『泉』を読み解く鍵は、作品が生まれた時代背景にもあると小川さんは解説します。

「コンセプチュアルアートは、目に見えるものではない、ということ。現代アートと呼ばれる作品は、『なぜ、こんなわけが分からないものを皆がもてはやしているんだろう?』と思うことばかりだと思うけど、見えているものではなく、その先にあることを見つめないといけない。だから、面倒くさい、消費しにくいんですね。自分からその作品の先にあるものを考えないといけないのですが、その代わりそこには自由がある。自分でその先にある問いや問題にアクセスすることができます。」(小川さん・講座にて)

 
デュシャンから始まったコンセプチュアルアートですが、「コンセプチュアルアート」という言葉が使われるようになるのは1960年代中盤からになります。
(※講座で取り上げたアーティストや作品は、文末のリストをご覧ください)
 

ジョセフ・コスース 〈『現代アート事典』(発行:美術出版社 2009年)68頁より〉
ジョセフ・コスース
〈『現代アート事典』(発行:美術出版社 2009年)68頁より〉

 

ダミアン・ハースト 〈『BEYOND BELIFE』(発行:OTHER CRITERIA|WHITE CUBE 2008年)187頁より〉
ダミアン・ハースト
〈『BEYOND BELIFE』(発行:OTHER CRITERIA|WHITE CUBE 2008年)187頁より〉

 

フェリックス・ゴンザレス=トレス 〈『BILLBORDS』(発行:RADIUS BOOKS 2014年)90頁より〉
フェリックス・ゴンザレス=トレス
〈『BILLBORDS』(発行:RADIUS BOOKS 2014年)90頁より〉

 
 

現代アート=コンセプチュアルアートという認識が定着した、1991年に発表されたフェリックス・ゴンザレス=トレスの作品は、展示会場にキャンディが敷き詰められた作品です。この作品は、「指示書」に基づいて設置されるもので、キャンディの重さを160キロにすることと、鑑賞者が自由にキャンディを持ち帰れること、持って帰った分のキャンディを毎日補充することが指示書に書かれています。

  フェリックス・ゴンザレス=トレス 〈『現代アートとは何か』(発行:河出書房新社 2018年)234頁より〉

フェリックス・ゴンザレス=トレス
〈『現代アートとは何か』(発行:河出書房新社 2018年)234頁より〉

 
キャンディの「160キロ」という重さは、エイズで亡くなってしまったトレスのパートナーの体重とトレス自身の体重を足したもの。1980年代〜90年代のアメリカは多くの文化人がエイズによって命を落としていった時代でした。
キャンディを持って帰った鑑賞者には、トレスの作品として飾る人もいれば、ジャケットのポケットに入れたまま忘れてしまう人もいるでしょう。恋人との関係というパーソナルな問題と、エイズという社会問題、それらに全く関係のないと思っている人たちが実は、どこかで関係しているということが、「キャンディをもらう」という行為によってリアリティを持って問いかけられます。

「作品を読み解くときに自分自身のことを考えたり、自分が生きている時代や社会を考えてみてください。それによって作品の見え方や受け取り方が変わってくると思います。現代アートに触れるということは自分が社会や時代に対してどう思って生きているのかを試される。知識、経験、関係性をフルに動員して作品に関わることになります。現代アートに接するときに、いつどういった状況で作られたのかを想像するのは、ものすごく重要ですね。」(小川さん・講座にて)

講座の終盤では、日本のアーティストを取り上げて紹介しました。ちょうどNADiff a/p/a/r/tのギャラリーで展示をしていたアーティスト集団のChim↑Pomも2000年以降の日本のコンセプチュアルアートを代表するアーティストです。
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Chim↑Pom 〈『Super Rat』(発行:PARCO出版 2012年)83頁より〉
Chim↑Pom
〈『Super Rat』(発行:PARCO出版 2012年)83頁より〉

Chim↑Pomは『スーパー☆ラット』(2006年)や『ヒロシマの空のピカッとさせる』(2009年)など、美術の文脈や社会問題を取り上げながらも、ギョッとするような手段を用いて、問題を目の前に見せていくということをやっている、と小川さん。
NADiff a/p/a/r/tで展示中の作品『恵比寿の泉』は、デュシャンの『泉』を引用し、本屋の真ん中に設置した和式の便所(使用可)から地下のギャラリーへと汚水が流れていく作品です。

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〈Chim↑Pom『恵比寿の泉』2018年 NADiff a/p/a/r/tにて〉
〈Chim↑Pom『恵比寿の泉』2018年 NADiff a/p/a/r/tにて〉

〈Chim↑Pom『恵比寿の泉』2018年 NADiff a/p/a/r/tにて〉
〈Chim↑Pom『恵比寿の泉』2018年 NADiff a/p/a/r/tにて〉

〈Chim↑Pom『恵比寿の泉』2018年 NADiff a/p/a/r/tにて〉
〈Chim↑Pom『恵比寿の泉』2018年 NADiff a/p/a/r/tにて〉

偶然にも、デュシャンからChim↑Pomまでの100年の歴史をたどりながら、参加者は、今まさに更新されていくコンセプチュアルアートの歴史を目の当たりにするような講座となりました。(※Chim↑Pom展は終了しています)

次回の講座は8月24日(土)。
第二回のキーワードは「フォーマリズム」です。
1917年の『泉』の登場から「コンセプチュアルアート」という概念が生まれる1960年代までの間に起こった運動を「フォーマリズム」をキーワードに読み解いていきます。
 


 

●講座で取り上げた作品

 
◆マルセル・デュシャン『泉』1917年
◆ジョゼフ・コスース『1つと3つの椅子』1965年
◆オノ・ヨーコ『Apple』1966年
◆ダニエル・ビュラン『現場作品』1969年
◆リチャード・プリンス『無題(カウボーイ)』1980年〜、『無題(同じ方向を向く3人の女性)』1977年 他
◆シェリー・レヴィン『After Walker Evans』1981年
◆バーバラ・クルーガー『無題』1987年
◆シンディ・シャーマン『Untitled Film Still』1978年
◆フェリックス・ゴンザレス=トレス『無題(偽薬)』1991年
◆リクリット・ティラバニャ『Untitled 1992(Free)』1992年、『無題(モバイル・ホーム)』1999年
◆ダミアン・ハースト『Mother and Child (Divided)』1993年 他
◆ガブリエル・オロスコ『La DS カーネリアン』2013年 他
◆Chim↑Pom『スーパー☆ラット』2006年、『BLACK OF DEATH』2009年、『ヒロシマの空をピカッとさせる』2009年
◆岩井優『CLEAN UP 1.2.3.』2009年、『DFS Attack』2008年 他
◆遠藤一郎『RAINBOW JAPAN 2012』2012年
 


 

●講座第一弾「キーワードで読みとく現代アート」 全3回

 
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第一回 コンセプチュアル

開催日:2018年7月20日(金)20:00-22:00 ※終了しました

コンセプチュアル・アートがわかると、現代アートは楽しい!

コンセプチュアルとは、視覚イメージだけでなく、言語を介すことが前提となったアート作品のことです。1960年代から70年代を通して台頭したコンセプチュアルな観点をもつアートの動向は、世界各地、そして日本国内でも多様な展開をみせました。
コンセプチュアルの先駆けといわれる、マルセル・デュシャンの作品から、今日のアート動向まで、コンセプチュアル・アートの事例をみながら現代アートの基本を学びます。

 

第二回 フォーマリズム

開催日:2018年8月24日(金)20:00-22:00

フォーマリズムがわかると、現代アートを読み解ける!

フォーマリズムとは作品の主題や内容ではなく、作品にあらわれている「かたち」を重視する作品の解釈のことを指します。作家の感情や意図や、社会的背景、または鑑賞者の印象などを一切排除した批評理論は、ミニマリズムやコンセプチュアル・アートなど現代アートの芸術運動の発展に大きく寄与しました。フォーマリズム的作品の理解を通じて、現代アートを「読む」、スキルを身に着けます。
>>講座レポート
 

 

第三回 ポリティカル

開催日:2018年9月14日(金)20:00-22:00

ポリティカル・アートの動向を知って、「今」を知ろう!

情勢不安が高まるほど、政治と関係を結ぶ芸術への関心が取り戻される傾向がアートの世界にはあります。ポリティカル・アートとは、社会を批判的に表現したもの、または社会改善が制作動機にある芸術などにも使われるものです。
今日のアーティストが表現するポリティカル・アートの事例を見ながら、アート表現の射程を幅広くみてゆきます。
>>講座レポート

 


 

●講座お申し込み方法

 
要予約 / 前払い制(ご入金をもって、ご予約完了となります)

①NADiff ONLINESHOP : >>チケットご購入ページ ※クレジットカードでのお支払のみ(お支払完了後、ご予約受付完了のお知らせをお送りいたします)
②ナディッフアパート店頭 :現金でのお支払をご希望の方は、事前にご来店の上レジにてお申し込み下さい

 


 

●Profile

 
小川希(おがわ・のぞむ)
ogawa
1976年東京生まれ。2001年武蔵野美術大学卒。2004年東京大学大学院学際情報学府修士課程修了。2002年から2006年に亘り、大規模な公募展覧会『Ongoing』を、年一回のペースで企画、開催。その独自の公募システムにより形成したアーティストネットワークを基盤に、2008年に吉祥寺に芸術複合施設Art Center Ongoingを設立。現在、同施設代表。また、JR中央線高円寺駅~国分寺駅区間をメインとしたアートプロジェクト『TERATOTERA(テラトテラ)』のチーフディレクターも務める。
>> Art Center Ongoing
 


 

●お問い合わせ

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NADiff a/p/a/r/t
150-0013 東京都渋谷区恵比寿1-18-4 NADiff A/P/A/R/T 1F
TEL. 03-3446-4977

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