上妻世海『制作へ』刊行記念FAIR&TALK EVENT

●FAIR「制作へのフォーム作り、素振りとしての三十冊」
2018年10月16日[火] -11月18日[日](月曜日定休※月曜が祝日の場合は翌日)
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●TALK EVENT
2018年11月3日[土] 19:00-21:00
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制作へ1
 


 

●FAIR
 
「制作へのフォーム作り、素振りとしての三十冊」
 
会 期:2018年10月16日[火] -11月18日[日]
会 場:NADiff a/p/a/r/t店内

 
上妻世海氏が「制作へのフォーム作り、素振りとしての三十冊」をテーマに選書した30冊を、今回の選書のために書き下ろしていただいたエッセイとともにご紹介いたします。エッセイの一部を以下でご紹介いたします。なお、完全版は会場で無料配布いたしますので是非ご来場ください。
 
 

「制作へのフォーム作り、素振りとしての三十冊」

 
かなり乱暴に言うなら、僕が『制作へ』という表題論考で主張したかったことは「実在への独自の視座を獲得せよ」ということであり、それが意味することは「各々の生を制作を通じてただただ全うし、その中で獲得される共同性において視座を変容させ、拡張せよ」ということであった。僕はそれをある種のテキストで示すことで「作ることの可能性」を「作らないことの不可能性」へと転ずることができると考えたのである。僕は「実在への独自の視座を獲得」する方法論として〈あいだ〉に立ちつづけることを示した。しかしながら、僕たちは否応なく「私は私であるという同一性」、あるいは「私は他者であるという媒体性」の両者に引き裂れる。「私は私でなく、私でなくもない」という不安定な魂を制御することは非常に難しい。宮川淳が言うように、鏡の表面から、鏡の底へと降りていくことは、恐怖と不安、そして、ある種の魅惑に満ち満ちているのである……

僕は「不安定な魂を統御せよ」という無責任なことを書きたかったわけではない。僕はそれを維持する方法論としてフォーム作りを推奨している(そしてこの選書はそのための素振りとして構想されている)。形(フォーム)は型とのフィードバックループの中で両者を変容させながら生成している。プロフェッショナルが持つ独自のフォームは歴史や社会の中に存在する型、各々の身体、そして各々の置かれている環境の〈あいだ〉に制作される。自分勝手に頭の中で形を作ることでも、単に歴史や環境に迎合するのでもなく、その〈あいだ〉に立つこと、あるいは立ち続けることが重要なのだ。

誰でも想像できるような身近な例で言えば、かつて読売ジャイアンツの王貞治選手が打席に立つ際に対戦チームが敷いた「王シフト」という戦略を考えればよいと思う。1964年に広島東洋カープの白石勝巳監督は、王貞治が右側への打球が多いと言うことをリサーチによって裏付け、極端な右側方向への守備固めを実行した。白石監督がのちに述べたことによれば、王貞治が左方向に打てないから右側への偏向を行ったわけではない。王はもちろんプロである。左側に打つ技術を持っている。そんなことは白石監督にも分かっていた。では、何故、右側方向への守備固めを行ったのか? それは王のフォームを崩すためである。王が制作したフォーム、それは右側方向へ打球が飛ぶことが多い。それは統計的事実である。それを崩すために白石監督が行ったことは、環境の操作である。通常の守備のシフトから「王シフト」へ環境を変えること。それを通じて、仮に左方向へとヒットを量産されたとしても、長期的に見れば王貞治のフォームを崩し、王攻略に繋がるはずであると、彼は考えたのだ。もちろん言うまでもなく王は超一流の打者である。その目論見すら見抜き、彼は「王シフト」にも関わらず、右側方向へと強い打球を打ち込み続けたのである。ここには一見見えない高度に抽象的な空間における形と型の戦いがある。彼らはその次元での争いをしていたのである。

さて、上記の例は僕たちに対してどのように敷衍されるだろうか? 僕は継続可能な制作的生を作り上げること=フォームを制作することを推奨する。それは忙しかろうとなんだろうと、自らの置かれている歴史、社会、環境、そして身体を精査に分析し、その〈あいだ〉にあるフォームを「理解」することである。一般論に終始するのではなく、各々の環境と身体に対して実験しなければ、その理解は得られない。与えられた線に満足するのではなく、自ら線を引き続けなければならない。そして、それを維持しつつ、変容しつづけることである。白石監督が環境を操作したように、僕たちの置かれている環境は次々に変化していく。もっと抜本的な変化もあるだろう。例えば、大谷翔平が日本プロ野球からメジャーリーグへと海を渡ったときのことを考えてみてほしい。彼は、その環境の変化に対応するかのごとく、フォームを一本足打法からノーステップ打法へと変化させた。それは球速が速く、手元で小さく曲がる変化球に対応するためであろう。「私は私である」という自己同一性に意固地に執着するのではなく、「私はメジャーリーガーである」という空想上の他者に同一化するのでもなく、生成しつづける関係性の網目の中に「私は私でなく、私でなくもない」という不安定な自己があるということ、それを制御する技術は至るところに見受けられる。勿論、僕は困難なことを主張していることを分かっている。しかしながら、この激動の時代を生き延びるために、この選書が、各々が各々の仕方で素振りを行うきっかけになり、読者のフォーム作りの一端を担うことができれば、僕にとってそれ以上に幸せなことはない。

 

上妻世海

 


 

●TALK EVENT


出 演:上妻世海(美術家/キュレーター)
ゲスト:山本浩貴、鈴木一平(いぬのせなか座)

日 程:2018年11月3日[土]
時 間:19:00-21:00(開場:18:45)
会 場:NADiff a/p/a/r/t
定 員:70名
入場料:1,000円
 
イベント概要:

『制作へ』を理解するために、『制作へ』の可能性を拡張するために、いぬのせなか座から山本浩貴さんと鈴木一平さんをお招きする。本書を媒介に、本書を中心に公転するように議論を展開する。山本さんは言語表現における「私」や共同制作の問題を探求してきた立場から、あるいは荒川修作+マドリン・ギンズの研究者である立場から本書を理解する補助線を、可能性の線を引くことを試みる。宮川淳の非人称やマルセル・デュシャンのアンフラマンスとの緊張関係のなかで独自の概念を作り制作してきた荒川と本書はある種の近接関係があると、彼は指摘している。また鈴木さんは現代詩人としての立場から『制作へ』における上妻的制作論をもとに、日本近代詩の歴史的文脈の捉え直しを考える。文語定型詩から口語自由詩へと移りゆく過程で見いだされた制作者の内的確信に基づく感情表現と、モダニズム詩において試みられた人工的な視覚性、それらを包括するかたちで生み出された新たな定型としての戦争詩といったトピックを、言語そのものに埋め込まれた諸感覚の連携や芸術作品の受容を巡って配備される複数の媒体間の生産・流通体制などから考えていく。『制作へ』は理論的であり誘惑的な「本」として機能することを目指された。本イベントを機に更に様々な線が惹きつけられ/惹きつけることを切に願っている。(文責:上妻世海)

 

●EVENTご参加方法

 
ご参加を希望される方のお名前、お電話番号、ご参加人数を明記の上、メールにてご予約ください。
お電話でも承っております。TEL : 03-3446-4977
※当日キャンセルはかたくお断りしております



※受信制限をされている方は、当店からのメールを受信できるよう設定お願いいたします。
 


 

●商品情報
 
上妻世海『制作へ』

制作へスクエア
価 格:3,456円
発行元:オーバーキャスト エクリ編集部
発行日:2018年10月16日
サイズ:A5判変形
項 数:320頁

 
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いぬのせなか座2号

いぬのせなか座2号書影
価 格:1,080円
発行元:いぬのせなか座
発行日:2016年8月
サイズ/仕様:A1クラフト紙(1枚)+A5判型冊子(44ページ)+Webデータ(印刷に使用した全テキスト・画像データ)

 
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●Profile

 
上妻世海(こうづま せかい)
上妻世界
1989 年生まれ。おもなキュレーションに「Malformed Objects— 無数の異なる身体のためのブリコラージュ」(山本現代)、「時間の形式、その制作と方法 ─ 田中功起作品とテキストから考える」(青山目黒)。著作に『脱近代宣言』(水声社、落合陽一・清水高志との共著)。
Twitter: @skkzm
 

山本浩貴(やまもとひろき)

yamamoto
1992年生まれ。言語表現を軸とするグループ「いぬのせなか座」(http://inunosenakaza.com)主宰。同メンバーのhとともに、デザインや編集、パフォーマンスの制作を行うほか、雑誌等へ批評や創作を寄稿。主なテクストに「新たな距離 大江健三郎における制作と思考」(『いぬのせなか座』1号、いぬのせなか座、2015年)、「句(集)によりオブジェ化された時空らが上演する制作のデモクラシー 〈空〉の鳴らす歪なリズムの地平を方方に立たせていく」(『図書新聞』2017年12月2日付)など。主なデザインに「現代詩アンソロジー「認識の積み木」」(『美術手帖』2018年3月号)、加藤治郎『Confusion』(書肆侃侃房、2018年)など。西野嘉章『村上善男――玄々とした精神の深みに』の装釘・造本(著者の西野氏と共同デザイン)で第52回造本装幀コンクール 経済産業大臣賞 受賞。Twitter: @hiroki_yamamoto
 
鈴木一平(すずきいっぺい)
suzuki
詩人。1991年宮城県生まれ。「いぬのせなか座」「Aa」参加。詩集に『灰と家』(いぬのせなか座、2016、第35回現代詩花椿賞最終候補)。第6回エルスール財団新人賞[現代詩部門]受賞。
 


 

●お問い合わせ

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