編集部より
4年前のある日、小学校3年生の教室にお邪魔したときのことでした。たまたま手提げのなかに、前の日に書店さんで購入した澤田知子さんの「OMIAI♡」がありました。見慣れない本の体裁に惹かれたのか、ひとりの子が興味をもったようで、みせてくれ、と言ってもっていき、教室の端の席について本を広げました。「OMIAI♡」は、着物やスーツを着てお見合い写真の一枚に写った何人もの澤田知子さん本人が、一冊におさめられている、という作品でした。子どもにむけた本ではなく、いわゆる“現代アート”と呼ばれる作品で、一般には、人間の内面と外面の関係性について語っている作品だと言われていました。小学生はどんな風に読むのだろう?と見守ることにしました。本を広げたその子は、かなり熱心に見入っていました。しばらくすると、友達も集まってきて、「これ〜のかあちゃんに似てる〜」「2組の〜にそっくりじゃん」などとしばし盛り上がっていたのですが、読み進めていくにつれ、ふざけた雰囲気が神妙なものにかわっていきました。一度読み終えると、さらにページをもどり熱心に見比べ、何かごそごそと話していました。本をかえしにきた子が言ったひと言に、はっとしました。「もしかして……これ、みんな同じ人?」。そうだ、と返事をしても、「ほんとうに、みんな同じ人?」と真剣な表情でした。〈ここに写っているのは、当然みな作家の「澤田知子」だ〉とあらかじめ了解して読みすすめた自分のなんと読みの浅いことだろう……。澤田さんの作品のもつ、表現の可能性を子どもたちに教えてもらった気持ちでした。帰って、その日おきたことをしたため、澤田さんにお手紙を送りました。
そんなきっかけではじまったこの本がかたちになるには、とても時間がかかりました。構成はもちろん、ちょっとしたテキストのちがい、写真の並べ方などによって、まったくちがう本になってしまう繊細な性質をもった本だったからです。
子どもたちが教えてくれたあのふしぎが、読者のみなさんにも届きますように。 |